6月度の来院患者数は延べ6,564 人を記録しました。開院以来の通算患者数のうち6,433 人は外来、48 人が入院です。81 人は当病院または当病院スタッフが訪れた、地方医療センターにて外科治療を受けた患者です。そのうちの52 人は外来患者として手術を受け、あるいは外科病棟に入院しました。
外科・麻酔チームの手術件数が200件に
今年1 月末に手術室がオープンして以来、6 月で通算手術件数は200 件に達しました。この間、一般外科および整形外科の幅広い分野にわたる手術が可能となり、圧倒的な手術成功率を誇っています。
手術室スタッフはこの一里塚を祝うと共に、患者の外科需要を満たすべく心を新たにしました。どの国においても、外科治療の費用は高額です。幸いシアヌーク病院では、外科治療を始めるに際して、必要な物資の多くを寄付していただくことができました。第2 手術室および外科病棟の後半部分も、備品が整い次第、オープンできる状態になっています。これが実現すれば、治療できる患者数が飛躍的に増大すると共に、カンボジア人外科スタッフの研修レベルも格段に向上することでしょう。
カンボジアでは今、抗生物質の不適切な使用が、深刻な問題として波紋を広げています。家族経営による何百もの零細薬局が、抗生物質を含むあらゆる種類の医薬品を、処方箋なしで販売するためです。そうした医薬品のかなりの部分を占めているのが、最近開発された抗生物質であり、きわめて強い効果がある一方、濫用すればその対バクテリア抗性低下を招きます。
この国では、ふつうの風邪や下痢などに罹ったとき、庶民は診療代を節約するため、薬局に行くだけで済ませることが多いのですが、薬剤師はごく簡単な問診の後、たいてい5 種類の薬を処方します。すなわち、3種類の抗生物質、パラセタモール(テイレノール)、そしてビタミン。しかし、風邪や下痢というのはビールスにより引き起こされるものですから、バクテリア感染に対してのみ作用する抗生物質が投与されても、効果はありません。この結果、患者は効きもしない薬を買わされてお金を無駄にし、かつ抗生物質の効力を低下させるという悲劇が生じているのです。
抗生物質が過度に、そして不適切に投与されていると、バクテリアの耐性が強くなってきます。そして、本当のバクテリア感染が発生したときには、抗生物質はもはやバクテリアを殺す力を失っており、感染を阻止できません。これが、いわゆる抗生物質の抗性低下です。こうしたことから、他国では有効に作用する抗生物質でも、この国では役に立たないことが少なくないのです。最新に開発された強力なものだけが効くわけですが、それもたちまち濫用されるために、バクテリアは耐性をつけてしまいます。
もう一つの問題は、抗生物質の副作用の危険性です。クロラムフェニコールは、カンボジアで濫用されてきたために効力を失った抗生物質の一つですが、多くの人々が、今なお有効だと信じ込んで服用しつづけています。恐ろしいことに、クロラムフェニコールは骨髄を永久的に損傷させることがあり、その場合、血液や血漿板が生成されないので、患者は貧血や出血で死に至ります。我々は、多くの患者がクロラムフェニコールの濫用により、骨髄を侵されて死んでゆくのを観てきました。
現在最も懸念されるのは、バクテリアがあらゆる抗生物質に耐性をもつために、肺炎、dysentery 、そして尿管感染などの一般的な疾患が、致死病になってしまうことです。耐性をつけたバクテリア群は、人や空気を介して先進国にまで拡散し、先進世界での感染死亡率を高める可能性があります。
当病院では、最善の治療法を決定するために、費用はかかっても、必要な微生物検査をかならず実施するなど、適切な抗生物質使用について内科医を徹底教育・研修しています。正しい薬物投与と副作用の監視に力を入れることで、こうした医師たちが、カンボジアにおける今後の抗生物質・薬物使用の医療基準を創設してくれることを切に願っています。 |