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1998 6
マンスリーレポート
通算手術件数200件に
 6月度の来院患者数は延べ6,564 人を記録しました。開院以来の通算患者数のうち6,433 人は外来、48 人が入院です。81 人は当病院または当病院スタッフが訪れた、地方医療センターにて外科治療を受けた患者です。そのうちの52 人は外来患者として手術を受け、あるいは外科病棟に入院しました。

外科・麻酔チームの手術件数が200件に

 今年1 月末に手術室がオープンして以来、6 月で通算手術件数は200 件に達しました。この間、一般外科および整形外科の幅広い分野にわたる手術が可能となり、圧倒的な手術成功率を誇っています。

 手術室スタッフはこの一里塚を祝うと共に、患者の外科需要を満たすべく心を新たにしました。どの国においても、外科治療の費用は高額です。幸いシアヌーク病院では、外科治療を始めるに際して、必要な物資の多くを寄付していただくことができました。第2 手術室および外科病棟の後半部分も、備品が整い次第、オープンできる状態になっています。これが実現すれば、治療できる患者数が飛躍的に増大すると共に、カンボジア人外科スタッフの研修レベルも格段に向上することでしょう。

 カンボジアでは今、抗生物質の不適切な使用が、深刻な問題として波紋を広げています。家族経営による何百もの零細薬局が、抗生物質を含むあらゆる種類の医薬品を、処方箋なしで販売するためです。そうした医薬品のかなりの部分を占めているのが、最近開発された抗生物質であり、きわめて強い効果がある一方、濫用すればその対バクテリア抗性低下を招きます。

 この国では、ふつうの風邪や下痢などに罹ったとき、庶民は診療代を節約するため、薬局に行くだけで済ませることが多いのですが、薬剤師はごく簡単な問診の後、たいてい5 種類の薬を処方します。すなわち、3種類の抗生物質、パラセタモール(テイレノール)、そしてビタミン。しかし、風邪や下痢というのはビールスにより引き起こされるものですから、バクテリア感染に対してのみ作用する抗生物質が投与されても、効果はありません。この結果、患者は効きもしない薬を買わされてお金を無駄にし、かつ抗生物質の効力を低下させるという悲劇が生じているのです。

 抗生物質が過度に、そして不適切に投与されていると、バクテリアの耐性が強くなってきます。そして、本当のバクテリア感染が発生したときには、抗生物質はもはやバクテリアを殺す力を失っており、感染を阻止できません。これが、いわゆる抗生物質の抗性低下です。こうしたことから、他国では有効に作用する抗生物質でも、この国では役に立たないことが少なくないのです。最新に開発された強力なものだけが効くわけですが、それもたちまち濫用されるために、バクテリアは耐性をつけてしまいます。

 もう一つの問題は、抗生物質の副作用の危険性です。クロラムフェニコールは、カンボジアで濫用されてきたために効力を失った抗生物質の一つですが、多くの人々が、今なお有効だと信じ込んで服用しつづけています。恐ろしいことに、クロラムフェニコールは骨髄を永久的に損傷させることがあり、その場合、血液や血漿板が生成されないので、患者は貧血や出血で死に至ります。我々は、多くの患者がクロラムフェニコールの濫用により、骨髄を侵されて死んでゆくのを観てきました。

 現在最も懸念されるのは、バクテリアがあらゆる抗生物質に耐性をもつために、肺炎、dysentery 、そして尿管感染などの一般的な疾患が、致死病になってしまうことです。耐性をつけたバクテリア群は、人や空気を介して先進国にまで拡散し、先進世界での感染死亡率を高める可能性があります。

 当病院では、最善の治療法を決定するために、費用はかかっても、必要な微生物検査をかならず実施するなど、適切な抗生物質使用について内科医を徹底教育・研修しています。正しい薬物投与と副作用の監視に力を入れることで、こうした医師たちが、カンボジアにおける今後の抗生物質・薬物使用の医療基準を創設してくれることを切に願っています。

患者の物語
テイエン・ユンさん
 バイクの荷台に付けた篭に、パンを入れて売っていたテイエン・ユンさん。彼が生活に困ることになったのは、1997 年7 月の政変中に起こした事故で、右脚の腓骨を骨折してからでした。
 骨折箇所が開いたままで添木をし、地元の病院に運ばれましたが、入院したのは2 日のみ。手術費用が賄えなかったからです。傷口が開き、折れた骨が露出し、足は正常な位置から90 度回転した状態のまま、帰宅したのです。

 キエン・クーレン・リハビリテーション・センターのスタッフが診察したとき、事故からすでに10 カ月経っていましたが、骨は皮膚から突出したまま、骨折も治癒せず、足は硬直して動かない状態でした。折れた側の脚には全く体重をかけられないため、働くことは不可能でした。
 家で傷口は清潔に保っていたため、感染の進行はくい止められていました。しかし、病院での検査の結果、骨折部位は抗生物質耐性のあるバクテリアに占領された状態になっていました。

 シアヌーク病院では、まず3 回の手術が連続して行われました。壊死したり露出している骨を除去し、ボストン医療センターおよびEBI カンパニーより寄付された外部固定フレームを装着します。そして、外科病棟のスタッフが術後治療に尽くしました。この結果、患部は徐々に快方に向かいました。現在は、次の手術を受けるまで自宅療養中です。今度は、骨折した腓骨を接着するための血管骨グラフトという処置が行われます。
 「キエン・クーレン・リハビリテーションセンターおよびその当病院との協力に、本当に感謝しています。失業状態であった私を支援し、手術を受けられるようにこの病院に連れてきてくれたのです。日夜、心から温かく患者を手当てしてくださっている、この病院のすべてのスタッフの皆様に、熱くお礼を申し上げたいと想います」


ゴウ・ポウンさん
 ポウンさんは、呼吸困難、高熱と黄疸を訴えて病院を訪れた25 歳の男性でした。子どもの時に患ったリューマチ熱の後遺症で、心臓弁の異常による心不全を起こし、肺炎と慢性ウィルス性肝炎(B 型肝炎)を併発していました。治療により、心不全、肝炎、肺炎は快方に向かいましたが、心臓弁の損傷はカンボジアでは修復できなかったのです。
 そして、まもなく容態が悪化しました。胸の激痛を訴え、重症肺炎である肺abscess が見られました。抗生物質の種類を変えて投与を試みましたが、症状は改善されず、もはや手の打ちようがなく、死の危険が迫っていました。当病院の一般外科医であるルース・トウーテイル博士が、超音波撮影を併用した排液処置を行ったところ、褐色の異常な液体が排出されてきました。それを慎重に分析したところ、肺炎と肺abscess に共通した原因となるバクテリア種が確認されましたが、これらのバクテリアに対して有効な抗生物質は、カンボジアではただ一種類しかありません。幸い、当病院の薬局には、製薬会社からの寄付により、この抗生物質が限られた量ですが保有されていることが判明しました。

 8日間にわたる治療の後、ついにポウンさんは危機を脱し、肺abscess も肺炎も平癒して帰宅できたのです。「この病院の医師および看護婦のみなさまに、何と感謝してよいかわかりません。私が覚えている両親や兄弟のように、私を温かく手当てしてくれました。家族は全員、死にました。本当にありがとうございます」と、インタビューに答えてポウンさんは感激の面もちで語っています。
 結婚して4 年になる奥さんも、「この病院は、本当にカンボジア国民に希望を与えてくださっています。私たちは、このような医療を受けられる世代に生きていられて、とても幸せです。肺炎のような病気が抗生物質耐性により治癒できなくなることが、とても心配です」

 シアヌーク病院は、抗生物質を適正使用することを厳守しています。そして、我々の子どもたちが将来抗生物質耐性により苦しむことがないよう、抗生物質の使用に際しては慎重を期しかつ十分な知識をもって臨むように徹底して研修しています。

スタッフの横顔
ヘザー・マグソン
 ヘザーさんは、英国での収入をなげうって、応援にかけつけてくださいました。緊急に、経験豊富な看護婦を必要としていた、当病院の熱望に応えてくれたのです。英国のウォーセスタシアーにて看護教育を受け、カンボジアに来る直前はターミナルケアのホスピスに勤務。彼女の貴重な経験は、死を迎えようとしている患者への対応や尊厳について、看護スタッフに絶大な示唆を与えてくれるに違いありません。HIV 感染者数が増大している今、彼女の技術と情熱は、そうした患者たちへの対応について、一つの道を開いてくれるものと確信しています。

トク・ボーンさん
 ボーンさんは、採用されてからこの11 カ月、プロ意識に徹底し、勤勉かつ忍耐力に傑出していました。シアヌーク病院の図書館司書として仮配属された任務を、1 年以上にわたって見事にこなしてきました。図書館用のスペースが完全に空いて、搬入ができる状態になったとき、彼は空間を最大限に活用できるレイアウトを熱心に提案し、また全書籍の搬入、分類、収納などの作業にも率先垂範しました。
 ボストン・マサチューセッツからお越しいただいた客員の医療図書館司書であるゲール・コーガン女史は、 20 年におよぶ自身の経験を惜しみなくボーンさんに伝えてくださり、ボーンさんの図書館学原理の理解力、そして情熱的な向学心を絶賛していました。

 ボーンさんは、それらの図書は当病院の貴重な資産であると共に、カンボジアにおける最大の英語文献の宝庫として認識しており、その管理責任を担うことになります。彼は、この図書館のインターネットシステムの顧客アシスタントを自ら希望して担当してきました。彼のたゆむことのない熱心な勤務態度は、特筆に値します。ボーンさんは、まさに病院スタッフの貴重な宝であり、彼の人間的な温かさや、プロ意識は高く評価されています。

図書館情報
ゲール・コーガンさん
 ゲール・コーガンさんは、当病院に優れた医療ライブラリーを整備するために、自らの時間、経験、そして蔵書を惜しみなく捧げてくださいました。
 彼女の個人的な人脈からの情報で、この病院でカンボジア人医療エキスパートを育成していること、そして貧困層に無料で治療を提供していることを知ったといいます。マサチューセッツのセント・ジョーンズ病院の医療図書館司書を定年退職した後、当病院に第一級の図書館を創設するために、ほぼ2年間にわたり週3 日を費やし、20 年におよぶ経験と図書館に関わるコネクションを駆使して、本を適切に配置するために尽力されたのです。医療図書や雑誌が詰まった重い箱をニューイングランド全域から取り寄せ、自腹を切ってそのカンボジアまでの輸送費を負担しました。そして、到着したパッケージの開封、分類、そして司書となるボーン氏の教育のために、自費でカンボジアを訪れて2 週間にわたり滞在されました。
 当病院の発展、そしてカンボジアにおける将来の医療教育のために尽くされた彼女の惜しみない献身に、深い謝意を表します。

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