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1998 8
マンスリーレポート
外科研修プログラムが、厚生省により認可!
当病院の外科研修プログラムが厚生省により認可!
3年制研修プログラムに、プノンペン大学およびベルギー給費外科医が参加

 プノンペン大学および保健省首脳との会談の結果、当病院外科医長のグラハム・ガムリー医師により開発された3 年間の外科研修プログラムが、正式な医師研修科目として認められることになりました。 「この病院に赴任して1 年の経験と同僚から得たデータにもとづき、我々の知識をベースに、当病院が経験した重症および最新の症例に適用できるプログラムを開発しました」とガムリー医師。
 プノンペン大学は、その外科研修生の1人を6カ月単位のローテーションでシアヌーク病院に派遣したいと希望し、またベルギーの給費外科研修プログラムでは、毎週当病院に6人の研修生を送り、半日間の指導にあたらせる旨を約束してくれました。


地方病院に対して大規模な寄付

 当病院が提供した8 個のコンテナ分の医療物資が、地方病院と保健省との架け橋になりました。この大量の寄付物資の到着が、地方病院の必須備品需要を満たすとともに、市内の多数の病院を大きく援助することになりました。当病院のベッド数は限られていますので、常時患者を地方病院に回さなければならない必要性に迫られています。しかし、これらの病院には医療物資が極端に欠乏していることが多いのです。

 私たちが患者たちの危急性と寄付されてきた必須医療品や物資の提供について話しあった結果、シアヌーク病院からの貧しい患者を受け入れたいという各病院側の意志が、著しく向上されたのでした。また、各辺境地区の病院のために必須物資を保健省に供給したいと我々が提案したところ、保健省側からは術後の痛みを軽減するための貴重な薬品を当病院薬局に供給してくれることになりました。


エイズ患者の対応に全力

 エイズは、当院を訪れる多くの患者の命や家族に、悲劇的な影響をおよぼしています。エイズ感染を伴う重症の疾病の処置にあたっている私たちは、エイズ教育や家庭でのヘルスケアにも意欲的に取り組んでいく予定です。

 カンボジアは、現在アジア最大のエイズ感染国となっています。約15 万人の感染患者を抱え、しかも毎年 17,000 〜25,000 人ずつ増えています。2000 年までには総人口の1.5 %に及ぶことが予想され、今年末までの死者数は21,800 人と算定されています。識字率が60 %、平均修学期間がわずか2.5 年であることに加えて、貧困、栄養失調、そして他の性伝染病の蔓延などが拍車をかけ、患者増大率も世界最速です。
 直接接触をする性労働者の42%がHIV に感染しており、これもアジア最大の割合です。感染者の40 %は女性であり、妊娠女性の2.6 %が感染しています。こうした危機を回避することは、肺炎・結核などのエイズにより引き起こされる二次感染を治療しつつ、日常生活態度や行動に対する教育を施すことにほかなりません。

 当病院は、カンボジアでのHIV 対策を展開するうえで、革新的なリーダーシップをとってきたことを自負しています。カンボジア人主任エイズ内科医であるソック・ファン医師、ネイビー医師、ガック医師等を先達とし、ギリアン・ホール医師の指導のもと、献身的な医師、看護婦およびパラメディカルスタッフが育ってきています。これまでの成果としては、外来および入院患者に対するサービスが向上してきたこと。さらに、自らの時間を割いて公衆衛生教育や服装、コンパニオンシップ、食事や個人対応で末期のケアに貢献してくれるボランティアを養成するための、ボランティアトレーニングプログラムを開発したことが挙げられます。
 ボランティアによる、いわゆる衝撃緩和プログラムも実施されています。これは、英国人家庭医学内科医であるギリアン・ホール医師、ボランティア・コーディネータであるチハベリス氏の指導のもと、ホスピスや家庭におけるエイズ患者の支援を推進するものです。1 年前にHIV 支援グループがスタートし、患者の激励、患者のエイズ教育の推進、そして相互の精神的なニーズを満たすために尽力しています。

 プノンペンの街路や隣接地区におけるエイズ啓蒙活動は、世界エイズデーキャンペーンの一環として昨年 11 月に4,000 世帯以上を対象に実施されました。この成果は、ボランティアの人たちがその献身的努力を9 カ月間にわたって継続してくれるという形であらわれ、彼らは連日エイズ患者の家庭や病院の訪問を続けてくれたのです。
 このグループに属していた常駐ボランティアのうちの3 人が、今年、WHO (世界保健機構)から財政支援をうけたフルタイムのエイズホームケア・パイロットプロジェクトの一員として任命されました。これは、カンボジアにおけるエイズ患者の看護および支援を向上させるための組織的ホームケアとしては、パイオニア的な試みです。
 またこのボランティアグループは、エイズ患者の生理的および精神面での要求に応えるための看護、およびエイズ知識の研修のための支援資金を世界銀行から提供を受けました。研修資料は、シアヌーク病院のガク医師およびネービー医師により作成されています。新規ボランティア研修プログラムをスタートするにあたり、ゲストスピーカーとして招待されたのは、ナショナル・エイズプログラム委員長であるテイア・ファラ医師です。世界銀行、CARE ・インターナショナル、保健省、ワールド・ビジョン、およびHIV ・エイズコーデイネーション委員会の他のメンバーをゲストに迎えたパーティが、ボランティアを対象にした第一回研修会に先だって行われました。

 この14週間にわたる研修プログラムによって、自らの貴重な時間を公衆予防教育やターミナル疾病の看病に捧げてくださるボランティアの皆さんは、この都市において大きな影響力を持ち続けることでしょう。なお14 週間にわたるボランティア研修プログラムを指揮するのは、ナショナル・エイズ・プログラム委員長のテイア・ファラ医師です。


患者数は増大の一途

 当病院医療スタッフの技能向上により、診療できる外来患者数も増えてきました。
 この月は、7,730 件の診療を実施し、うち154 件が外来外科患者、7,566 件が内科診療でした。プノンペン市にて当ニュースレターを公表すると共に政治的なアピールも行った結果、全スタッフが積極的に協力して、貧しく危急を要する患者を可及的すみやかに診療できるようになりました。

患者の物語
コウ・ファリさん
 コウ・ファリさんは50 歳の女性で、4 カ月にもわたる下痢、食欲不振と激しい体重減少に苦しんだ末、救急治療室を訪れました。肥大したリンパ節、断続的な発熱、白く痛々しく荒れた口腔などは、まぎれもなくエイズ感染を示す症状でした。下痢による脱水症状がひどく、体から激しく塩分が失われていました。内科病棟に収容されたコウさんに生命を保持するためのIV 液補給が行われ、検査室からのデータにもとづき、体内塩分が是正されました。検査の結果、アミーバ性赤痢(微小アミーバによる腸の感染)を患っていることが判明。これは、汚染された水や食物を感染源としてカンボジアで蔓延している寄生虫による伝染病です。

 看護スタッフは、HIV 検査前の難渋なカウンセリングでも献身的に彼女を支えました。その後血液検査を実施したところ、残念ながら、結果は陽性でした。当病院には、こうした際にショックに打ちひしがれる患者を支援するためのHIV カウンセラーが控えています。ファリさんは下痢と赤痢の治療を受けた後、過去何カ月かのうちで最高にいいという体調で退院してゆきました。彼女は、病院側の対応に厚く礼をのべ、「7 歳と10 歳の子どもたちを養うために街頭で食べ物を売る仕事に戻れます」と、心から感謝されていました。すでに夫は昨年エイズで失っており、子どもたちを学校にやる経済的余裕はないとのことでしたが、「子どもたちの世話をする時間ができたことが希望です」と言い残して、病院を後にしていきました。

 彼女の症例が、カンボジアのエイズ患者治療における重大な一面を明らかにしています。HIV 感染の展開は著しい広がりを見せています。アミーバ性赤痢などの他の感染症による免疫系の異常として発見されることが多いのですが、その病状はより激しいのが特徴です。HIV 患者は、これらの併発した疾病の患者として治療することができ、数カ月後または数年後に正常な生活に戻ることができます。

 優れた看護とは、慎重な観察や投薬を意味するものですが、同時に患者の感情面での傷をいたわることをも含んでいます。質の高い手当てを行うには、医師が正確な判断を下せるよう精度が高く信頼性あるデータを提供できる、高性能で高応答性の検査室が必須です。当病院が画期的な成果を挙げ続けているのは、とりもなおさず医師、看護婦、カウンセラーおよび検査スタッフによるチームワークと協力のたまものだといえるでしょう。


ノイ・ヘンさん
 ヘンさんは、激しい頭痛、発熱と吐き気に12 日間悩まされた末、コンポン・チャム州から5 時間かけて来院した44 歳の女性でした。地元の個人診療所では、抗生物質、抗結核薬、ほか数種の分析薬のカクテルを処方されていました。しかし、症状は悪化する一方で、ついには衰弱とめまいのために歩くことさえままならない状態に陥りました。救急治療室での腰椎刺水や他の検査を実施した結果、極めて稀なクリプトコッカス・ネオフォルマンスという微生物による感染が判明し、そのために髄膜炎を患っていたのです。この症状は、エイズ感染患者に見られることが多いのですが、ヘンさんはすでに夫を亡くしてから永年になっていました。 HIV 検査は陰性だったので、私たちは彼女が速やかに全快できることを確信しました。

 内科病棟に収容されたヘンさんに対する治療は、投薬初期に複数の激しい副作用を伴うアンフォテリシンB という副作用の辛い薬の投与から始まりました。最終的に感染状態の改善があらわれ、20 日後にはずいぶん体調が回復し、帰宅できる状態にまで戻りました。ただ、その後数週間は経口服薬を続け、外来診療に通う必要があります。病院スタッフは、この死病とされる病気から彼女がめざましく回復したことに、大いに勇気づけられる思いでした。ヘンさんの18 歳になる娘さんは、「患者に笑顔で接し、励ましてくださる病院スタッフを初めてみました。この病院に来られたことは本当に幸せで、母の命を救ってくださった皆様に心から感謝しています」と感激されていました。

スタッフの横顔
プート医師
 プート医師は、1 年前に医師として採用されました。以前に専攻していた超音波撮影技術を生かすべく、救急治療室および内科病棟に配属されました。超音波およびX 線診断の需要が増大してくるにつれて、彼がこの面に多くの時間を費やす必要が増大し、この2 部門における任務も膨大なものになってきましたが、彼は常に前向きで、穏やかな態度で取り組んでいます。

 プート医師は、その後、放射線部門の管理責任者として任命されました。この任務において彼は経費削減、診断品質の向上、および患者および医師に対するサービスの向上に率先して努めました。彼は、2 人目のカンボジア人放射線技師の採用に尽力し、この技師は現在24 時間体制の呼び出し任務の一員として活躍しています。また、さらにX 線解析研修プログラムも企画しています。彼の献身的なリーダーシップによって、X線研修ライブラリーも実現する予定です。さらに、古いX 線フィルムを売却することによって、資金の捻出にも貢献しています。彼らは、当病院医師たちにより正確で最新かつ迅速なX 線解析サービスを提供するために、努力を重ねています。

 プート医師は、プノンペンで医学を専攻したのち、コンピュータと超音波撮像を習得しました。これまでの彼が実践してきたたゆみない向上心は、ここカンボジアにおいては極めて重要かつ貴重な特質だといえるでしょう。彼はみずから当病院に加入してその需要に応えたいと希望し、また激務に追われる同僚が休暇をとれるように、配慮しています。彼は、自らが関わるすべての業務においてつねに明るく、協力的態度を崩さず、また個人的な対話においても謙譲の心をもっています。彼の優れた能力と態度に接して、私たちが彼を迎えることができた喜びを感じています。

 プノンペンにおける医療費は、世界の一流病院に比較して著しく安価です。皆さまからお贈りいただいた寄付物資によって、どれほど多くの生命を救済できているかと思いを馳せるとき、深い感謝の意を禁じ得ません。わずか6 ドルで、生死にかかわるマラリア患者1 人を治療できるだけの医薬品が得られます。123 ドルで、重症患者を1 日入院させることができます。患者たちは極めて症状が重くなってから収容されてくることが多いのですが、内科病棟に6 日間入院して投薬を受ければ、その後は外来でフォローを受けることで、帰宅できるまでに平癒することが多いのです。492 ドルで、外科患者を4 日間入院させることができ、これによって患者は治療と訓練を受けて生産的業務に戻ることができます。また3000 ドルで、患者の看護に携わり実践研修を受けるカンボジア人看護婦1 人に対して、1 年間の給料を支払うことができます。これらの費用には、検査、X 線、投薬、消毒、清掃および保安スタッフおよび研修指導が主業務である海外スタッフを雇用する費用も含まれています。

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