さよなら薬剤師マリアン・バルヌエヴォさん
主任薬剤師であり薬局部長であったマリアン・バルヌエヴォさんが、7月6日に母国フィリピンへの帰国の途につきました。彼女は、1996年11月にホープ・ワールドワイド独自の多国籍チームの一員として選任され当病院に赴任、完工したばかりの建物を、機能する病院に変貌させるために尽くしてきました。カンボジアの貧しい病人たちの多大な需要に応えたいという本人の強い希望で、マリアンさんは新しい薬局となる予定の、空の埃っぽい部屋と直面することになります。そこには、わずかな一般的薬品が箱に入ったままあるだけでした。スタッフもおらず、棚も、機器も、家具もありません。彼女は、1日に何百人と訪れる患者の需要を満たすべく、右も左もわからない未知の国で、限られた資源で効率的な薬局を創りあげなければならないことを認識したのです。
マリアンさんと当時の院長グラハム・オグル医師は、必要とされる医薬品のほとんどを英国の高品質、総合医薬品供給業者から入手する手配に成功。そして彼女は、なお不足する他の多くの薬品を、地元の業者から供給してもらえるように尽力したのでした。棚の制作を発注し、地元スタッフを採用し、家具を購入し、米軍から寄贈された多くのベッドサイドテーブルを使って仕事場を創り上げていったのです。出入りする医薬品のオーガナイズと棚卸しを実施し、また地元スタッフを国際レベルに育てるべく、あらゆる教育と指導に明け暮れました。さらにマリアンさんは、議定書、マニュアル、ガイドラインなどを整備して機能的な外来薬局をつくりあげ、1日に500人に処方できるまでになったのです。
1997年7月のカンボジア暴動の際に、マリアンさんはフィリピン大使館に帰国を勧められたにもかかわらず、カンボジアを救いたいという強い意志でプノンペンにとどまりました。のち、新設された内科病棟のための入院患者用薬局システムを構想するために、看護スタッフと協力して働くことになります。さらに、手術室や外科病棟のオープニング、また麻酔監視にあたっては、外科医や看護婦と協力を重ねました。そうする間にも、マリアンさんは休むことなくカンボジア人薬局スタッフの研修指導をつづけ、新たな議定書やマニュアルの作成に励みました。この結果、着実に能力を向上させていった部下のスタッフに薬局の運営を任せられるようにまでなり、マリアンさんの帰国も可能になったのです。
この感動的で困難な体験を通じて、マリアンさんは休むことのないハードワーク、優れた技能、指導への熱意、強い誠実さ、貧しい人たちへの哀れみと静かな決意を持ち続けました。部下全員が彼女を慕い、自分たちへの彼女の絶大な献身に深く感謝して、別れを惜しみました。
薬局部にとって、マリアンさんの支えなしに機能し、発展を遂げるることは、大きなチャレンジとなるでしょう。病院の全スタッフが、彼女の喪失を残念に思っていますが、彼女が残してくれた財産は、決して忘れられることはないでしょう。マリアンさんの新しい旅立ちを心から祝福し、そして深い感謝と愛をささげます。
薬局部は、今後、ネアン・モムさんとテイー・ソクさんの二人の主任薬剤師がマリアンさんの後継を務めます。私たちは彼らの進歩をたいへん誇りに感じ、またこの大切な部門が地元のカンボジア人エキスパートにより運営されることを大変うれしく思います。ソク・Yさんとモムさんのすばらしい成長を祝福いたします。
看護婦研修
液体と電解質との平衡についての知識を深めるべく実施されてきた看護婦研修ですが、前回は心臓および神経の両機能に対するある種の電解質の作用をテーマとなりました。血液中には、ナトリウム、カリウムおよび塩素などが電解質として含有されています。
当病院患者の多くは、慢性心疾患のために心機能が衰えています。電解質の不均衡は患者にとって致命的となることもあり、兆候や症状の早期把握が救命には必須です。
最近の症例では、救急治療室に運ばれてきた少女が下痢による激しい脱水症状を呈しており、心機能に影響の大きいカリウム値も危険レベルにまで低下していました。ただちに脱水状態についての精密検査とカリウム補給措置がとられました。しかし、来院時までに病状が激しく進行していたために手遅れとなり、残念なことに彼女は救急治療室でなくなりました。この症例は、このテーマについての看護研修の重要さを示しています。
その後、当病院に心臓デフィブリレータおよび心臓モニターが寄贈され、これらの機器の作用メカニズムや使用が必要となる各種の臨床状況について、看護スタッフを対象にした説明研修会が行われました。
この研修会の後、二人の救急治療室内の患者が心機能の悪化を示す高心拍の症状を呈しました。両患者とも、投薬では瀕脈を是正できず、カーデイオヴァージョンを同期化するための心臓デフィブリレータにより、危機を脱したのでした。もしこのときに、機械が使用できる状態になければ、二人の患者は確実に絶命していたでしょう。こうした医療機器がどのようなメカニズムで機能するのか、なぜ患者がカーデイオヴァージョンを必要とするのかについて研修で得ていた知識が、担当していた看護スタッフの絶大な助けとなったのでした。カンボジアでは、こうした機器が医療現場で使用できるというのは、非常に貴重で希なことなのです。 |