抗生物質濫用による耐性増大を憂慮
カンボジアでは、抗生物質の濫用が深刻な問題となっています。数百におよぶ家族経営や小規模の薬局では、抗生物質を含むあらゆる薬剤を処方箋なしに安く販売しています。その多くは最近開発された抗生物質で、強い効果がありますが、慎重に使用しなければ耐性を高めてしまいます。
カンボジアでは、ふつうの風邪や下痢などの患者は、診療費を節約するために、医者に行かずに、薬局に走ることが一般的です。薬剤師は、簡単な問診だけで、多くの場合には5種類の薬剤、3種類の抗生物質、パラコタモール(チレノール)およびビタミンなどを処方しています。しかし、そうした疾患はビールスにより引き起こされるものなので、抗生物質は効果がありません。
抗生物質は、バクテリア感染に対してのみ働くからです。残念なことに、ビールス感染している患者は、必要のない抗生物質のためにお金を捨てているのみならず、抗生物質耐性の増大にも寄与しているのです。抗生物質の濫用がバクテリアの抗生物質耐性を高める結果、真性のバクテリア感染が起きたときには、抗生物質は、もはやバクテリアを殺すことも、感染を阻止することもできなくなります。このために、他国では有効な抗生物質も、この国では効かないということが少なくありません。まだ使われていない、最新の強い抗生物質のみが効くわけですが、それらもまた、無差別的に濫用されることによって、やがてバクテリアに対して無力になってしまうのです。
第二の問題は、抗生物質の副作用の恐ろしさです。クロラムフェニコールは、カンボジアで長く処方されてきたために、すでに効力を失っている抗生物質です。しかし、多くの人はまだそれが効くと信じて、服用しています。その副作用のために骨髄が損傷され、造血作用や、血小板生成機能を失ってしまっている患者もみかけます。クロラムフェニコールの使用によって、骨髄が破壊されて死亡した患者を何人もみてきています。肺炎、赤痢や尿管感染などの一般的な感染病が、あらゆる抗生物質に対するバクテリア耐性が高まることによって、死病となってしまうことが深く懸念されます。耐性を得たバクテリアの細菌が、人々や空気を介して伝染して発展途上国にゆきわたり、人々に致命的な病を引き起こす恐れがでています。
シアヌーク病院では、高価ではあっても必要な微生物検査を実施して、最善の治療法を決定し、また適切な抗生物質の用法を遵守することを、内科医に教育指導しています。
人事ニュース ヘザー・マーグソンさん
英国出身の看護婦であるヘザーさんは、安定していた高給の職をなげうって、経験の豊富な看護婦を切望している、当病院に駆けつけてくれました。英国ワースター州で、看護婦教育を受けたヘザーさんは、最近では末期患者を介護する、ホスピスに勤務していました。彼女の経験は、当病院看護スタッフに、死期の迫っている患者に対する看護技術と、そうした人々に対する敬意と尊厳を学ぶ機会を与えてくれることでしょう。HIV患者の増大に伴い、彼女の技術と慈悲が、そうした患者を介護するための我々の案内役になってくれることを期待しています。
図書館だより ゲイル・コーガンさん
ゲイル・コーガンさんは、当病院の医療図書館を充実させるために、ご自身の時間、経験と能力を惜しみなく提供してくださいました。
何人もの個人的な知り合いから、シアヌーク病院における、カンボジア人医療スタッフの研修や、貧困患者に提供している無料医療について聞かされていたゲイルさん。マサチューセッツ州ローウェルのセント・ジョンズ病院の医療図書館員を引退した後、彼女は当病院で、ほぼ2年間のあいだ毎週3日を費やし、20年にわたる経験と、医療図書館とのコネクションを生かして、本の機能的な配置に全力をそそぎ、第1級の医療図書館にしてくれたのです。彼女は個人的にも、重い医療書籍が詰まった箱の運搬手配や、ニューイングランド全州からジャーナルを取り寄せて、それらのカンボジアへの輸送費用を、ご自身で負担されました。さらに、自己負担で2週間にわたってプノンペンを訪れ、自らこれらの資料の荷解きや分類に携り、当病院図書館員のボーンさんを指導してくださったのです。
この病院とカンボジアにおける、将来の医療教育の発展に尽くしてくださったゲイルさん。その偉大なご功労に心から感謝いたします。 |