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2001 10
マンスリーレポート
注目を集めるARV療法

注目を集めるARV療法

  抗レトロウィルス(ARV)療法と、その実施に資金を投入する動きが、医療界全体に広がりつつあります。
 貧資源地域におけるARV療法に関するセミナーが、シアヌーク病院主催、ベルギーのアントワープ熱帯医療研究所の協力にて開催され、今注目を集めているこのテーマについて、議論が展開されました。

 ほとんどのHIV患者は発展途上国で発生しています。このため、95%の患者はARVを購入する経済的余裕がなく、さらにその多くは基本的な医療を受けられる環境にさえありません。ARV医薬は、こうした国々にも低価格で供給されるようになってきましたが、まだまだ多くの障害が存在しています。初期的な医療インフラを整えて機能させ、基本的医療を提供できるようにすることが急務です。

 ARV療法へのアクセスが容易になるにつれ、医療共同体のなかで広く遵守事項や、薬物耐性について議論することが必要であり、また、正しい処方が絶対必須であること、一生継続して投薬を受ける必要のあること、などを強調しなければなりません。資源不足の問題は、DOT(直接監視療法)を用いた結核治療においても指摘されました。カンボジアでは、現在、8ヵ月間にわたる完全治療を受ける結核患者は、50%にとどまっています。医薬品および、フォローアップケアをしてくれる医療専門家の数が限られているからです。カンボジアが、ARV療法へのアクセスを提供することを計画し、その実施のための資金が有効に活用されれば、多くの分野で医療システムのインフラを改善できるでしょう。

 シアヌーク病院HIVアドバイザーで熱帯医療研究所スタッフのルート・リネン医師は、国立エイズ研究所のテイア・ファラ医師を迎え、熱帯医療研究所のロバート・コレバンダー医師を座長として、このミーテイングを開催し、オープンデイスカッションのためのフォーラムを企画しました。ゲストには、国立大学教授でカンボジア国立エイズ研究所のアドバイザーである、タイ・ホア氏が招かれました。
 ロバート教授は、世界保健機構の臨床エイズ治療およびARV療法のアドバイザーです。1985年、彼はアフリカにおけるHIV感染について、UNAIDSの現所長であるピーター・ピオット医師と共に研究を始めました。このプログラムおよびシアヌーク病院で実施してくださった、彼の熱のこもったご講義に深く御礼申し上げます。


強力な助っ人ー客員外科医の方々

アンドリュー・バード医師

 火傷が専門のアンドリュー・バード外科医が当病院を訪れ、数人の患者に対して貴重な診断とアドバイスを与えて下さいました。アンドリュー医師は6月に再訪され、自ら執刀して、彼らに手術を実施してくださることになっています。また、彼の講義も予定されています。

ロナルド・ボート医師
 アンドリュー医師は、友人であり同僚でもある、香港のプリンス・オブ・ウェールズ病院神経外科助教授のロナルド・ボート医師と共に来訪されました。南アフリカ出身で3年間香港に在住されていたボート医師は、夫人とご子息を伴って訪れ、頭部外傷と頭蓋内感染について講義してくださいました。そして、驚くべきタイミングのよさで、入院患者の一人について専門家として助言され、その脳内膿瘍から発生している液体を、除去するための手術を孰刀してくれたのです。彼の専門知識と技術がなければ、この患者を救うことはできなかったでしょう。さらに、彼の指導とアドバイスのおかげで、当病院スタッフで今後もこの手術を継続的に行うことができるようになったのです。
 今回の当病院訪問について、ボート医師は、次のような感想を述べていらっしゃいました。「カンボジアを訪れ、シアヌーク病院に滞在したことは、とても貴重な経験でした。あらゆる物資が溢れている先進都市の香港からこの発展途上国にやってきて、悲惨な状況と膨大な医療需要を目の当たりにして、多くのことを学び、考えさせられました。

ジョー・マコーミック医師
 コロラド州からご訪問くださった、整形外科のジョー・マコーミック医師は、4回の講義を実施、そして、当病院の外科研修医と共に数件の手術を執刀されました。彼は、患者診察時に務めて臨床講義を実施してくださり、病院スタッフともすぐに打ち解けて友情を築かれました。彼は、この病院を訪れたことによって、本当に医学の視野が広げられたと語り、スタッフの献身ぶりに感動したとおっしゃいました。
 「海外整形外科プログラムのボランテイアに応じたとき、米国外の新しい国で医療事情を学びたいと熱望していました。私がプノンペンで経験したことは、その期待を遥かに超えたものでした。この病院全体に、訪れる人すべてを歓迎するバイタリテイが漲っていて、とても刺激を受けました」

患者の物語
「心臓周囲に滞溜した膿液除去により、重体から生還!」 ロス・ロットさん
 2週間にわたる高熱、胸痛、呼吸困難を患って、23歳のロットさんは重体で搬送されてきました。それまで、彼は地元で結核の治療を受けていましたが、症状は悪化するばかりだったそうです。

 激しい呼吸困難と発汗があり、呼吸が異常に速くなっています。胸部超音波診断の結果、心臓周辺に多量の液体が充満しており、これが心臓を圧迫し、血液の推進効率を低下させていたのです。排液処置により、1リットル半の、にごった黄色の液体が出てきました。その後、数日でさらに1.5リットルの液体が排出された結果、治療の効果があがりはじめ、1週間後に退院することができました。今後、8ヵ月間の通院を続けることになります。彼のお姉さんは、次のように喜びを表していました。

 「私たちは12人兄弟(男10人、女2人)で、母は高齢の未亡人です。家は大変貧しく、ずっと誰に助けを求めたらいいのかもわからない状態でした。お隣の人がこの病院のことを教えてくれて、弟が治療を受けさせていただき、新しい生活を始めることが可能になりました。家族全員、本当に喜んでいます。全身全霊で弟の治療に力を尽くし、励ましてくださった、ここの全てのスタッフの皆様、本当にありがとうございました。スタッフの方々は、無料の治療を求めて訪れた患者たちに、一言の不満も漏らさずに献身されていました。この病院がなければ、弟は死んでいたに違いありません」


「バクテリアと寄生虫で重症の腎不全に」 リアン・タイン・シアンさん
 シアンさんは約1年前から顔面と両足が腫れ上がる症状が何度もおきて、通学不能になっていました。そのつど、民間療法を受けるか、非処方の薬を薬局で求めてしのいでいたそうです。
 しかし、2ヵ月後にはこうした療法に浮腫が反応しなくなり、地元の治療施設に長期入院することになりました。退院後、また腫れが再発したのでしたが、今度は、腹部の弛緩と下痢も併発、おなかと両足が激しく膨張し、上皮組織の亀裂から体液が染み出してくるほどでした。
 シアヌーク病院での診断の結果、彼は慢性腎肥大を患っており、これが蛋白の欠乏を招いて浮腫が起きていたのです。利尿剤を点滴し、症状の原因であるバクテリアや寄生虫を殺す、一連の抗生物質が投与されました。2週間後、彼は無事に退院でき、フォローアップの検査予定が立てられました。

 母親のリアムさんは、
「この病院に来たとき重体だった息子が、わずか2週間ですっかりよくなりました。彼の父は数ヵ月前に亡くなりました。みなさんとても親切に息子を助けてくださいました。私は母として息子を愛していますが、この病院のスタッフは、他の患者さんたちにも全力で救済にあたっておられ、私以上に息子を愛してくれたと思います。カンボジア人医師と外国人医師の方々が協力してこの国の人々を救ってくれている情景を、初めて目のあたりにしました。」

 シアンさんの担当医であるブン内科医は、
 「シアンさんは入院の3日前に診察していたのですが、その時は満室だったので、ベッドに空きがでるまで点滴のために通院していただきました。ここには、カンボジアの全土から患者が訪れています。海外からいただいているご支援に深くお礼申し上げます。カンボジアにおける医療需要は膨大であるにもかかわらず、資源は極めて厳しく限られています。ここの内科病棟ベッド数はわずか12で、空きベッドは1日に1、2台しかありません。そのため、最重症の患者しか入院させられないという状況ですが、こうして人々に医療を提供できることに、心から感謝しています」

スタッフの横顔
コイ・ソ・モンサさん
 救急治療室付看護士のモンサさんは、過去3年半にわたって、自らの任務に強い情熱とプロ意識で取り組んでくれました。これにより、彼は同僚の中でもリーダーとして認められ、優れたチームワークと責任感を育ててくれたのです。向学心も旺盛で、リーダーとしての力量も成長を続けています。

 最近、モンサさんは、カンボジアにおけるパイロット・テレメデイシンプレプロジェクトに、シアヌーク病院代表として参加されました。僻地の村に住む患者さんを専門的に診察し、その結果をインターネットでシアヌーク病院、および米ボストンのマサチューセッツ総合病院に報告するというものです。彼は、極めて複雑な条件下での難度の高い任務を見事にこなし、その信頼性と優れた知識を称えられました。
 救急治療部におけるリーダーシップが評価されたモンサさんは、今月の最優秀スタッフとして選定されました。今後、彼はシアヌーク病院看護チームの幹部的存在となります。

ソアーズ・プレム・プレイ医師
 プレム・プレイ医師は、昨年7月に内科部からHIV部に異動になりました。彼は、率先垂範の姿勢と、新しい任務へのすぐれた適応力で、注目を集めています。わずか8ヵ月の間に、HIVの専門内科医および地域監視員として著しい進歩を見せ、開発途上地区のコミュニテイ活動に貢献しています。地方への往診制度の改善にたゆまぬ努力をかさね、特に当病院のHIV支援グループおよび家庭介護チームになくてはならない存在です。この両チームは、彼のリーダーシップのもとで大きく成長を遂げました。
 彼は、これらの支援グループの中で患者に対するだけでなく、自らの時間を割いて彼らの自宅や病院を訪問し、HIV/AIDSの患者に勇気と希望を与えてくれています。彼のずばぬけたエネルギー、そして喜びと感謝をもって仕事に取り組む態度は、病院の全チームの模範として高く評価されています。
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